次世代シーケンサの比較

近年、高速に大量のDNA配列を決定する次世代シーケンサ
次々に開発され、ゲノム研究・遺伝子発現研究などに多大な
影響を与えている。実際インパクトファクターの高い雑誌に
次世代シーケンサを利用した研究が数多く見られる。
とはいえ、いったい今どのようなシーケンサが作られ、どういった
特徴があるのか気になるもの。そこで少し次世代シーケンサについて
まとめてみた。以下の内容は私個人がいろいろな関連サイトを見たり、
専門家からの意見を聞いたりして、勝手にまとめたものです。
(もし間違えがあればご指摘ください。))

  1. SOLEXA (Ilumina社):フローセル上のアダプターにDNA断片を付着させる。Bridge PCR法により増幅しクラスターを作成。そこにDNAポリメラーゼと取り外し可能な蛍光標識した塩基を加えていくことで1塩基ずつ配列を同定していく方法。取り外しの不完全性などから配列長が長くなるほどリードの信頼性は低下する傾向にある。解析長約36bp。1run当り数百万リード。発現解析等に有効。最大の特徴は低コスト性。そのため様々な配列解析への挑戦も容易?(失敗した時のボスからのお冠が少ない?)私が知る中でこの技術を利用した論文が一番多かった。
  2. SOLiD(Applied Biosystems社):エマルジョン内で磁気ビーズ上のアダプターにDNA断片を付着させ、増幅させる(エマルジョンPCR)。蛍光標識したオリゴヌクレオチドを繰り返しハイブリダイズすることで並列シーケンシングする方法。オリゴヌクレオチドの3'端は蛍光標識があるため、次のライゲーションを行うには一度蛍光標識を取り外してから行う。オリゴヌクレオチドは5'端の2塩基に対しひとつの蛍光が割り振られているため、数塩基ずつとびとびに配列決定していく。1塩基ずつずらしたプライマーを用いることで全配列を決定することができる。SolexaはDNAポリメラーゼによるDNA複製を利用しているのに対し、SOLiDはligaseによるオリゴヌクレオチドのライゲーション反応を利用している。ライゲーションとDNA複製のどちらが正確かは不明だが、Solexa同様に配列長が長くなるほど信頼性は低下する。解析長約35bp。1run当り1億リード。1run当りに読めるリード数が多いのが特徴。またジヌクレオチドごとに配列を読むため、SNPとミスシーケンシグを区別できる。そのため発現解析やSNP解析に適する。
  3. 454 GS FLX(454 Life Science社)パイロシーケンシング法を利用したもの。SOLiD同様にエマルジョンPCRによりビーズ上でDNA断片を増幅させる。1ビーズが収まる程度の穴に増幅したDNA断片を持つビーズを1つ入れ、そこに1種類ずつの塩基を加えていく。この塩基が付加されると同時に生成するピロリン酸をATPに変換し、それを用いてルシフェラーゼ存在下でルシフェリンと反応させることで化学発光を起こさせる。この化学発光を測定していくことで配列決定を行う。DNA断片中で同じ塩基が連続して表れる場合(例えばAAなど)、発光強度の大きさの違いにより区別される。ただし、これが長くなると強度測定の信頼度が低下するらしい。解析長約250bp。1run当り350,000リード。最大の特徴は解析長が他に比べ一段と長いこと。そのためゲノム配列決定やメタゲノム解析に有効。
  4. HeliScope Sequencer(Helicos社):1分子シーケンシングを行う。解析長約30bp。1run当り数十億リード。最大の特徴は1run当たりのリード数。
  5. SMRT(Pacific Bioscience社):まだ開発段階のシーケンサ。他との違いは蛍光標識を塩基からリン酸側に移したこと。そのためDNAポリメラーゼ(DNApol)が塩基を取り込む度に蛍光を発するようになる。つまり今までのシーケンサでは1塩基読むのに1DNApolを費やしていたのに対し、SMRTでは1DNA当り1DNApolで配列を決定することが可能となった。元々DNApolは1秒あたり1000塩基のDNAを合成することができ、このシーケンサはこのDNApolの機能を最大限生かした方法ともいえる。また最大の特徴は1分子検出が可能なこと。

これらのシーケンサからは大量の配列が得られるが従来のBLASTなどの
相同性検索プログラムではマッピングに時間もかかり大変。そのため次世代シーケンサ用の
マッピングプログラムも開発されている。詳細は以前まとめたのでそちらを参照。
http://d.hatena.ne.jp/Tanakky/20080411
まあ比較といってもそれぞれ特徴が異なり、
研究室・研究所が行っているまたは目指している方向によって
どのシーケンサが有用なのかわかれるのかもしれない。
まあそれでも数時間で多くのDNA配列を読める時代になったのはすごい。
数年前までは夢のまた夢であった各個人のゲノム解読も可能になる日も
近いのかもしれない(でもまだ倫理面や個人情報保護などの問題点は残っては
いるが)(-o-)/